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JFS規格

認証の種類

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1.HACCP認証制度をめぐる政府の姿勢

政府の施策におけるHACCPの位置づけの変化を中期的に見るため、食料・農業・農村基本計画におけるHACCPに関する記述を表1及び表2に示す。
表1 これまでの食料・農業・農村計画におけるHACCPに関する記述
決定時期 目的 取組の内容
2000年3月 食品の衛生管理及び品質管理の高度化 食品製造業におけるHACCP(危害分析重要管理点)手法の導入の促進等を通じ、食品の衛生管理及び品質管理の高度化を推進
2005年3月 食の安全及び消費者の信頼の確保 食品製造事業者のHACCP手法の導入を推進するとともに、食品安全マネジメントシステム(ISO 22000)の普及・啓発を行う。
2010年3月 「品質」、「安全・安心」といった消費者ニーズに適った生産体制への転換 「HACCP支援法」に基づく長期低利融資に加え、食品の製造実態に応じた低コストで導入できる手法を構築し普及するとともに、現場責任者等の養成のための取組を強化。また、HACCP 手法の導入が困難な零細規模層に対して、HACCP 手法の前提となる一般的衛生管理を徹底。
表2 食料・農業・農村基本計画(2015年3月)におけるHACCPに関する記述
分野 目的 取組の内容
製造段階における取組 食品製造事業者における衛生・品質管理のための取組 中小規模層の事業者へのHACCP 導入を進めるため、「HACCP 支援法」に基づくHACCP 導入のための施設や体制の整備等、必要な環境整備を推進。また、HACCP の導入等を担う人材の育成や、消費者理解を促進するための取組等を推進する。
輸出環境の整備 輸出環境課題の解決に向けた取組を優先順位を付けながら計画的に推進 輸出先となる国や事業者等から求められるHACCP、ハラール、GLOBALG.A.P.等の認証取得を促進。また、国際的な取引にも通用する、HACCP をベースとした食品安全管理に関する規格・認証の仕組みの構築を推進。
食品産業事業者の国際的な競争力確保 海外からその取組が評価される環境を整える 日本発の国際的に通用する、HACCP をベースとする食品安全管理に関する規格や認証の仕組みの構築と、その国際規格化に向けた取組について、官民が連携して推進する。あわせて、事業者における、HACCP などの食品安全に関する知識を有する人材や国際的な基準の策定等の過程に参画できる人材の育成と、こうした規格や認証の仕組み等の海外への積極的な発信等を推進する。
食料・農業・農村基本計画は食料・農業・農村基本法第15条に基づき、食料、農業及び農村に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため5年ごとに定められるもので、
  • ア 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針
  • イ 食料自給率の目標
  • ウ 食料、農業及び農村に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
等について定めることとされている。 表1に記載した2000年から2010年の基本計画では、HACCPは主に国内に流通する食品の衛生管理や消費者の食品に対する信頼確保・回復のための手段として記述されているのに対し、表2に示す2015年の基本計画ではHACCPに関する記述が増え、関連する分野についても国内で生産・流通する食品の衛生・品質管理の改善だけでなく、食品の輸出や食品産業事業者の海外展開も視野に入れた施策として位置づけられている。HACCPが衛生管理のための手段から食品関連事業者の市場を国内から海外に広げるための切り札としてとらえられていることがうかがえる。 最近の政府による施策におけるHACCPの位置づけを、第2次安倍内閣の発足後、毎年閣議決定されている日本再興戦略を例にとって見てみる。日本再興戦略は、経済成長を確実に実現していくために、目指すべきマクロ経済の姿を掲げるとともに、政策群ごとに達成すべき成果目標を定めた政策パッケージであり、2013年6月に閣議決定された後、毎年6月に改訂・決定されている。2013年から2016年の日本再興戦略のうち、HACCPに関係する部分を表3に示す。日本再興戦略の中で、HACCPは一貫して食品輸出を促進するための手法として記述されていることがわかる。また、2013年の認証取得支援の考え方から、2015年には明確に認証の仕組みの構築を謳い、2016年にはその仕組みを年度内に運用開始することを求めている。
表3 日本再興戦略におけるHACCPに関する記述
作成年次 目的 取組の内容
日本再興戦略(2013年) 日本の農林水産物・食品の輸出促進等による需要の拡大 日本の食品の安全・安心を世界に発信するため、海外の安全基準に対応するHACCPシステムの普及を図る観点から、マニュアルの作成や輸出HACCP 取得支援のための体制の整備を来年度(注:2014年度)までに実施。
日本再興戦略改定2014 輸出先の求める規格の認証体制を強化するとともに、我が国食産業の海外展開等によるコールドチェーン等の輸出環境の整備 EU向けに水産物を輸出するための水産加工場のEU向けHACCP認定について、今後5年間で100件程度の認証が行える体制整備を進める。
日本再興戦略改定2015 輸出の環境整備。我が国農産物の食品安全性の向上や食産業の競争力強化 我が国農産物の食品安全性の向上や食産業の競争力強化のため、国際的な規格づくりとして、HACCPをベースとする食品安全管理に関する規格や認証の仕組みの構築を本年度中に官民連携で目指す。
日本再興戦略2016 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた対応の準備 GAP・HACCPに関し、国際的に通用する水準の認証の仕組みについて、本年度(注:2016年度)中に運用を開始し、国際規格化に向けた取組を加速する。

2.GFSIとスキーム

世界食品安全イニシャチブ(Global Food Safety Initiative:以下、「GFSI」)はThe Consumer Goods Forum(以下、「TCGF」)傘下の食品安全の推進母体で、小売業、製造業、食品サービス業、認定・認証機関、食品の安全に関する国際機関が参加し、食品安全マネジメントに関するスキームの評価を行い、一定の基準を満たすスキームを承認するという活動を行っている。GFSIではこうした活動を通じ、スキームの絞り込みと等価性の実現、食品企業が複数のスキームの認証を取得することによる業務の重複の軽減と効率化を図り、食品システム全体のコスト効率を高めることを目指している。 GFSIでは,審査機関や認証を受けようとする組織に対する評価の手順や基準を示したガイダンス・ドキュメント(GFSI Guidance Document)を公表し、スキームの評価を行っている。現在、使用されているのは2013年10月に公表された第6.3版ある。 ガイダンス・ドキュメント第6.3版では図1に示す分野の内、A(畜産物、水産物の生産)、B(植物、穀類・豆類の生産)、D(植物性食品、ナッツ類、穀類の前処理)、E(要冷蔵生鮮食品の処理)及びL(化学物質,生化学物質の製造)についてマネジメント、生産行程管理(GAP及びGMP),HACCPに関する要求事項が示されている。
図1 ガイダンス・ドキュメントにおけるスキームの範囲
図1 ガイダンス・ドキュメントにおけるスキームの範囲 2016年10月の時点でGFSIに承認されているスキームは表4のとおりである。多くのスキームが食品の一次生産や加工だけでなく、スキームによっては輸送や容器包装分野についても認証の対象としており、フードチェーンを一つのスキームでカバーできる体制を整えている。
表4 GFSIによる承認済スキーム(2016年10月9日確認)
名称 対象範囲 マーク
BRC Global Standard For Food Safety Issue 7
  • D 植物性食品の前処理
  • EI 動物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EII 植物性要冷蔵生鮮食品の処理
BRC Global Standard For Storage and Distribution
  • J 保管及び配送サービスの提供
BRC/IOP Global Standard For Packaging and Packaging Materials Issue 5
  • M 食品包装の製造
CANADAGAP version 6 options B, C and D and program management manual version 6
  • BI 植物の生産
  • D 植物性食品の前処理
FSSC 22000 October 2011 Issue
  • C 動物の処理
  • D 植物性食品の前処理
  • EI 動物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EII 植物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EIII 動・植物性要冷蔵生鮮食品(混合製品)の処理
  • EIV 常温保存性食品の処理
  • L 化学物質・生化学物質の製造
  • M 食品包装の製造
Global Aquaculture Alliance Seafood BAP Seafood Processing Standard
  • EI 動物性要冷蔵生鮮食品の処理
GLOBALG.A.P Integrated Farm Assurance Scheme Version 5, Produce Safety Standard Version 4 and Harmonized Produce Safety Standard
  • AII 魚介類の生産
  • BI 植物の生産
  • D 植物性製品の前処理
Global Red Meat Standard (GRMS) 4th Edition Version 4.1
  • C 動物の処理
  • EI 動物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EIII 動・植物性要冷蔵生鮮食品(混合製品)の処理
IFS Food Standard Version 6
  • C 動物の処理
  • D 植物性製品の前処理
  • EI 動物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EII 植物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EIII 動・植物性要冷蔵生鮮食品(混合製品)の処理
  • EIV 常温保存性食品の処理
  • J 保管及び配送サービスの提供
  • L 化学物質・生化学物質の製造
IFS Pack Secure Version 1
  • M 食品包装の製造
IFS LogisticsVersion 2.1
  • J 保管及び配送サービスの提供
PRIMUSGFS Standard V 2.1-December 2011
  • BI 植物の生産
  • BII 穀類・豆類の生産
  • D 植物性製品の前処理
  • EII 植物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EIII 動・植物性要冷蔵生鮮食品(混合製品)の処理
  • EIV 常温保存性食品の処理
SQF CODE 7th Edition Level 2
  • AI 動物の生産
  • BI 植物の生産
  • BII 穀類・豆類の生産
  • C 動物の処理
  • D 植物性製品の前処理
  • EI 動物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EII 植物性要冷蔵生鮮食品の処理
  • EIII 動・植物性要冷蔵生鮮食品(混合製品)の処理
  • EIV 常温保存性食品の処理
  • F 飼料の製造
  • L 化学物質・生化学物質の製造
  • M 食品包装の製造

資料:http://www.mygfsi.com/schemes-certification/recognised-schemes.html(2016年10月9日確認)

3.食品安全マネジメント協会とJFS規格

我が国では2で示したスキームのうちFSSC 22000がもっとも普及しており、2016年10月9日現在、全世界の認証件数13,384件のうち我が国の認証は1,382件で国別では第1位の認証組織数である。なお、第2位は米国の1,251件、第3位は中国の1,219件である。FSSC 22000はISO 22000による認証を主要な内容としており、総合衛生管理製造過程承認制度により既にわが国で定着しているCodexによるHACCPと同じ考え方を取り入れたスキームであることから、急速に普及が進んだものと考えられる。 しかし、海外の組織が所有するスキームの場合、わが国の食品についての理解が十分ではなく、特に欧米に類似の食品がないみそ、しょうゆ、削り節など微生物を応用した食品では、加熱殺菌などの対応を求められることがあるといった問題が生じる可能性もある。また、FSSC 22000の場合、認定機関、認証機関は年に一度海外で開催される大会に出席する義務を負い、参加費の負担を求められるとのことである。そうしたコストは最終的に食品製造業者の認証費用に含まれる。 さらに、自国で有力なスキームを持つことは、食品等の輸出入に際し、自国のスキームの認証を受けた工場で生産された食品等を相手国に受け入れさせることができる可能性が高まると考えられる。中国が自国の認証制度であるChina HACCPについてGFSI承認を申請した背景には、食品の安全性をめぐって貿易相手国との間で論争が生じた場合、自国のスキームの認証の妥当性を主張することで相手国に対し優位な立場で交渉ができるとの思惑があると考えられる。これから食品の輸出を拡大しようと考えている日本にとって、安全を確保するための自前の認証スキームを持つことは、規格類の文書が日本語で書かれているといった表面的なこと以上に大きな意味を持つものと考えられる。 農林水産省では、食料産業のグローバル化、その一方で我が国におけるHACCP普及率の伸び悩み、国際的に通用する我が国の認証スキームがないことを背景に、2014年4月に「食料産業における国際標準戦略検討会」を設置、課題について検討を行った。検討会は、2014年8月に
  • ア 日本発の食品安全マネジメントに関する規格・認証スキームの構築、
  • イ 食品事業者の内部及び国際標準化の過程に参画できる人材の育成、
  • ウ 海外への情報発信、
が必要であるとする報告をとりまとめ、公表した。 これらの対策のうち①について具体化に向けた議論を行うため、2015年1月に食品製造業者、流通業者等からなる「食品安全マネジメント等推進に向けた準備委員会」が設置され、認証スキームの内容、運営主体等について検討が行われた。2015年5月には、認証スキームの内容について
  • ア 国際標準の考え方をベースとして、食品安全管理の体制を確認できること、
  • イ 全ての食品関係事業者にとってわかりやすく、規制にも整合していること、
  • ウ 継続的に現場の取組を向上させていけるよう、段階的な取組や「現場力」の向上、取引先や消費者とのコミュニケーションを促すもの、
  • エ 和食やその材料にも適用しやすく、また、日本の食文化、企業文化について、海外の事業者からも評価が得られるもの、
  • オ 世界の食品安全の取組の向上に寄与するもの、
とする中間報告が公表された。 さらに、2015年6月には農林水産省の委託を受けた(株)三菱総合研究所が食品安全管理に関する認証スキーム運営主体の設立者の募集を開始、2016年1月、「一般財団法人食品安全マネジメント協会」が設立された。協会の設立者を表5に示す。
表5 一般財団法人日本食品安全マネジメント協会設立者
企業(五十音順)
アサヒグループホールディングス(株)
味の素(株)
イオン(株)
キッコーマン(株)
キユーピー(株)
サントリービジネスエキスパート(株)
(株)セブン&アイ・ホールディングス
(株)日清製粉グループ本社
(株)ニチレイ
日本生活協同組合連合会
日本製粉(株)
日本ハム(株)
(株)明治
(株)ヤクルト本社
山崎製パン(株)
雪印メグミルク(株)
(株)吉野家ホールディングス
(株)ローソン
有識者(敬称略)
東京海洋大学 先端科学技術研究センター 教授 湯川剛一郎
関西大学化学生命工学部 特任教授 広田鉄磨
協会の基本方針は、
  • ア 日本の食料産業の国際的な競争力の維持、
  • イ 中小の事業者の食品安全管理の分野での標準化、事業の効率化の推進、
  • ウ 日本の風土において培われてきた経験・実績・手法等の科学的検証、標準化、世界への発信、
であり、これらを実現していくため、一般的衛生管理とHACCP実施の準備段階である情報収集や記録の作成を求めるA規格、HACCPの実施を求めるB規格、マネジメントシステムの要素を含むC規格の3種類の規格を作成することとしている。 食品安全マネジメント協会では、パブリック/コメントの手続きを経て、3つの規格のうちC規格について2016年7月26日に、A及びB規格について2016年10月4日に公表した。 A、B及びC規格の適用範囲はいずれも
  • EⅠ 腐敗しやすい動物性製品の加工
  • EⅡ 腐敗しやすい植物性製品の加工
  • EⅢ 腐敗しやすい動物性及び植物性製品の加工(混合製品)
  • EⅣ 常温保存製品の加工
である。 各規格の目的は図2に示すとおりであり、A規格は一般的衛生管理を中心とした要求事項、B規格はA規格の要求事項にHACCPの要求事項を全て含んだもの、C規格は国際的に通用するレベルの認証を意図したものである。
図2 A,B及びCスキームの関係
図2 A,B及びCスキームの関係

資料:「食品安全マネジメントシステムの製造セクターの規格(JFS-E-C規格)及び認証スキーム文書(JFS-Cスキーム文書 )の概要」(一般財団法人日本食品安全マネジメント協会、2016年7月26日)

各規格の構成要素は①食品安全マネジメントシステム、②ハザード制御、③適正製造規範(GMP)の3要素であり、要求事項の数はC、B、Aの順に少なくなる。 C規格には現場からの改善提案の活用に関する要求事項が含まれている。これは我が国の強みである現場発案を有効に活用することを求めたものである。 なお、C規格について、2016年9月、大手製粉メーカーの主力工場が第1号の認証を取得したことが協会から公表された。協会では、1年以上の運用実績、10サイト以上の認証などの条件を満たせばGFSIの承認を目指すこととしている。
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