認証の種類
ISO22000
(1)ISO22000発行の経緯
ISO22000:2005「食品安全マネジメントシステム―フードチェーンのあらゆる組織に対する要求事項」(以下、「本規格」という。)は、HACCPシステムの原則及びFAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス)が示したHACCP適用の7原則12手順を計画 (Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを通じて継続的改善を図るマネジメントシステムの形にしたISO規格である。ISO/TC34の作業グループ(WG8)において検討作業が行われ、2005年9月に発行された。 2005年11月には本規格活用の指針としてISO/TS22004「食品安全マネジメントシステム―ISO22000:2005適用の指針」が発行された。さらに、2007年2月には、本規格適用のための指針及び審査・認証制度に関する要求事項であるISO/TS22003:2007「食品安全マネジメントシステム-食品安全マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項」が発行された。 財団法人日本適合性認定協会(JAB)を認定機関とし、審査員の評価登録業務については、一般財団法人日本規格協会マネジメントシステム審査員評価登録センター(JRCA)で行われている。JABの資料によれば我が国で本規格の認証を受けている組織は2017年2月23日現在747件とされている。(2)本規格解釈のポイント
1)本規格とHACCP
HACCPとは「Hazard Analysis and Critical Control Point」の頭文字を取ったもので「ハセップ」、「ハサップ」、「ハシップ」あるいは「エイチ・エイ・シー・シー・ピー」等と発音されている。日本語では、危害分析・重要管理点方式、あるいは危害分析及び重要管理点方式などと言われている。HACCPとは、7つの原則を含む12の手順により、食品の安全のために重要であるハザードを明確にし、評価し、管理するシステムのことであり、具体的な内容は表1に示すとおりである。 本規格において「安全な製品の計画及び実現」としてHACCPの実施手順を具体的に示している第7章の構成は図1のとおりである。これを見るとHACCPの12手順が規格の中にすべて含まれていることがわかる。2)規格の構成
本規格の構成は表2に示すとおりである。この章立ては品質マネジメントシステムの要求事項を記述した規格であるISO9001と全く同じであり、特にマネジメントシステムの構築に必要とされる諸要素(品質方針・品質目標の策定、文書化手順、マネジメントレビューの実施等)を記述している第4章から第6章の内容はISO9001の文言をそのまま踏襲している。 以下、規格を理解し活用する上で特に重要ないくつかのポイントに的を絞って記述を進めることとする。3)法令・規制順守(規格第5章)
法令・規制による要求事項の遵守は品質管理の基本であり、ISO9001でもその重要性についてトップマネジメントのコミット(約束)を要求事項として掲げている。本規格でもISO9001と同様、法令・規制による要求事項遵守の重要性を謳っているが、食品の安全性に重点を置いた本規格では、法令・規制による要求事項への適合をまず約束するようトップマネジメントに求めている。(表3)4)相互コミュニケーション
EUにおける食品安全施策の基本方針を示した「食品安全白書」(2001年1月)では、農場から食卓までのフードチェーン全体での取り組みや食品衛生や人の疾病に関する情報等を加盟国間で共有することの重要性が謳われている。この考え方は本規格の検討にも受け継がれており、規格の序文では、「フードチェーンに沿ったコミュニケーションが必須」とされている。 こうした考え方を受け、本規格には、コミュニケーションに関する要求事項が多い。特に経営者の責任において明確にしなければならない食品安全方針(§5.2)に、コミュニケーションに関する事項を盛り込むことが要求されているほか、フードチェーン全体に食品安全に関する問題の十分な情報が伝わることを目的とした外部コミュニケーション(§5.6.1)、及び内部コミュニケーション(§5.6.2)についても要求事項がまとめられている。食品安全基針にコミュニケーションに関する事項を明文化して盛り込む必要があるかについては議論があったが、財団法人食品産業センターに設けられた食品安全マネジメントシステム解説書作成検討委員会では、本規格に「コミュニケーションに関する事項を適切に盛り込む」とされていることを踏まえ、明文化して盛り込む必要があるとの結論に達した。5)前提条件プログラム(PRP)とオペレーション前提条件プログラム(OPRP)
5-1)前提条件プログラム(PRP)
本規格では、「安全な最終製品及び人の消費にとって安全な食品の生産、取扱い及び提供に適したフードチェーン全体の衛生環境の維持に必要な基本的条件及び活動」と定義し、PRP確立の際に考慮すべき事項として表4が示されている。 食品を取り扱う場合にもっとも注意しなければならないことは食中毒の防止である。食中毒を防止するための三原則は微生物を「付けない」、「増やさない」、「排除する」ことである。これは、具体的には環境の清浄化等による微生物汚染の防止、低温保管等による微生物の増殖防止、加熱殺菌や汚染された製品の廃棄等による微生物の排除のことを示している。PRPは定義からすると、三原則のうち「付けない」、「増やさない」ことを管理するための条件及び環境と考えられる。 本規格やHACCPではPRPが確立していることがシステム運用の基本(前提条件)となっている。5-2)オペレーション前提条件プログラム(OPRP)
「食品安全ハザードの製品又は加工環境への混入及び/又は製品又は加工環境における食品安全ハザードの汚染又は増加の起こりやすさを管理するために必須なものとしてハザード分析によって明確にされたPRP」と定義されている。三原則のうち微生物を「付けない」、「増やさない」ために必須となる条件又は活動を指す。5-3)重要管理点(CCP)
CCPは、「管理が可能で、かつ、食品安全ハザードを予防若しくは除去、又はそれを許容水準まで低減するために必須な段階」と定義されている。定義からわかるようにCCPは微生物を「排除する」為の管理手段である。 「管理が可能」とは、例えば、「即時の修正を可能にするタイムリーにモニターする」(§7.4.4 b))ことであり、モニタリングの結果、許容限界を超えた場合に、すぐ次工程や顧客へのリリースを止めることができるような管理を行えることである。6)ハザード分析、管理手段の選択と妥当性確認
本規格では、ハザード分析(§7.4)、OPRPの確立(§7.5)、HACCPプランの作成(§7.6)は7章にまとめられ、食品安全マネジメントシステム(FSMS)の妥当性確認は第8章に記述されている。しかし、これらは一体のものとして検討されなければならない。表1 HACCPの7原則12手順
- 専門家チームの編成
- 製品の仕様、特性について記述
- 食べ方、使用法について確認
- フローダイアグラムの作成
- フローダイアグラムの現場確認
- (原則1)危害分析(HA)
- (原則2)重要管理点(CCP)の特定
- (原則3)管理基準(CL)の設定 (注:ISO22000対訳では「許容限界」の訳語)
- (原則4)モニタリング方法の設定
- (原則5)改善措置の設定
- (原則6)検証法の設定
- (原則7)記録保存及び文書作成規定の設定
図1 規格第7章の条項とHACCPの12手順との対応
表2 本規格の構成
- 第1章 適用範囲
- 第2章 引用規格
- 第3章 用語及び定義
- 第4章 食品安全マネジメントシステム
- 第5章 経営者の責任
- 第6章 資源の運用管理
- 第7章 安全な製品の計画及び実現
- 第8章 食品安全マネジメントシステムの妥当性確認、検証及び改善
表3 経営者のコミットメント比較表
規格・条項 | コミットメント部分 |
---|---|
ISO 9001 §5.1 a | 「法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。」 |
ISO 22000 §5.1 b | 「食品安全に関する顧客要求事項を満たすことは当然のこととして、この規格の要求事項及びあらゆる法令・規制要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。」 |
注:ISO09001は顧客要求事項を、ISO22000は顧客要求事項よりも法令・規制要求事項を強調した表現となっている。
表4 PRP構築の際考慮すべき事項(§7.2.3)
- 建物及び関連施設の構造並びに配置
- 作業空間及び従業員施設を含む構内の配置
- 空気、水、エネルギー及びその他のユーティリティの供給源
- 廃棄物及び廃水処理を含めた支援業務
- 設備の適切性並びに清掃・洗浄、保守及び予防保全のしやすさ
- 購入した資材(例えば、原料、材料、化学薬品、包装材)、供給品(例えば、水、空気、蒸気、氷)、廃棄(例えば、廃棄物、排水)及び製品の取扱い(例えば、保管、輸送)の管理
- 交差汚染の予防手段
- 清掃・洗浄及び殺菌・消毒
- そ族及び昆虫の防除
- 要員の衛生
- 適宜、その他の側面